今回の車中の楽しみとして、
桐野夏生著『メタボラ』を選ぶ。単行本の形で出版された当時は、現代の格差社会を描いた小説として話題を呼んだものということで記憶に残っていた小説である。文庫本化を機に手に取ってみる。たしかに、正社員となることに失敗し、派遣労働者となり、さらには外国人労働者と最底辺で交差しあう現代の若・青年層労働者の実態をよく描いている。派遣と請負の違いや、労働者と現地企業の中間にはいる派遣会社や請負会社の実態をよく調べている。
だが、小説としてはそれほど面白いものではない。上巻と下巻ではちがった世界であり、主題もずれてきているような印象を受ける。最後は沖縄での政治活動…と、どうみてもリアリティ(想像力かもしれない)が希薄になり、小説の世界に引き込まれることもなく、惰性で読み終える。